英国雑貨トゥーシェ
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ピューター

概要

ピューターとは、昔からヨーロッパで利用されてきた金属の名称で、 錫(スズ)を主成分としてアンチモン、銅などを加えた合金である。英語表記はpewter。

ピューターの成分

ピューターは、主成分が「錫」であり、そこに銅・アンチモン・ビスマス・銀・鉛などを少量追加した合金である。 錫は非常に柔らかい金属であるため、硬度の高い他の金属を足すことで強度を高めている。(参考:モース硬度は、錫1.8、銅3.0、アンチモン3.0) また、銅は延性を強め、アンチモンは酸への耐性を強めている。

現代ピューターにおける錫の割合は、85~98%程度とかなり多い。細かい配合率は製造メーカー、製造国、製品種類によって異なるが、 例として、後述する英国ピューター工房のAEW社では、錫:92%、アンチモン:6%、銅:2%、を基本としている。 ただし、これは一例であり、製品を利用する国・用途により規制などがあるため配合率を変更している。 例えば、日本やアメリカ・カルフォルニアへの食器用では、アンチモンを抑えた錫の純度の高い物を使用する(錫:96%、アンチモン:2%、銅:2%など)。

ピューターの本場、イギリスでは14世紀よりピューター名誉組合(ギルド)が存在し、業界内の品質基準などが決められている。 この名誉組合の英名称は「The Worshipful Company of Pewterers」で、(文献に残っている限りでも)1348年から存在している。

鉛入りのピューターについて

昔、錫と鉛を使ったピューターが多かったが、19世紀に鉛は人体に悪影響であることが発覚し、 現代のピューター製品に鉛が使われることは殆どない。ただし、食器などへの利用でない場合、鉛入りのピューターも未だに使われている場合がある。 鉛の含有量によるグレードは以下の通り(質の良い順)。

鉛0% Fine Metal Pewter
鉛4% Trifling Metal Pewter
鉛15% Lay Metal Pewter

ピューターの特徴

まず、ピューターの金属特性をキーワードだけ列挙する。
  • ・融点が低い
  • ・柔らかい
  • ・延性が高い
  • ・再利用可能
  • ・重い
  • ・変色しにくい
  • ・高価
  • ・抗菌性
  • ・熱伝導率がたかい
  • ・お酒が美味しくなる
  • ・水を浄化する
成分の殆どが錫であるため、上記の特徴のほとんどは、錫と同様である。 上記を踏まえ、もう少し踏み込んだ特徴やメリットを後述する。

ピューターは加工しやすい

まず、融点とは「固体の溶ける温度」の事で、ピューター(錫)はこの温度が非常に低く、容易に溶かすことができる。 昔の人間は何千度という火力・熱を簡単には生み出せなかったため、溶けやすいピューターはとても成型しやすい金属だったと言える。 再利用可能も簡単であり、副産物のデメリットもほぼない。 (参考:融点はおよそ、錫230度、アンチモン630度、銅1080度。配合率によるが、ピューターも230~300度程度になる)
また、柔らかく延びやすい変形させ易い金属であり、鋳造や削ることによる「装飾」が比較的容易である。 大昔の技術力で利用できる金属で、装飾しやすく腐食しにくい物は少なかったため、重宝されたに違いない。
逆説的に、柔らかく、傷がつきやすく、変形しやすい事はデメリットでもある。 ただし、錫よりは硬度を高くし、日常生活品であれば問題ない硬度を持っているが、 実際の耐久性はピューターの厚みや大きさ、用途に因る。

ピューターは重い

これは言葉通りの意味で、金属であるため重い。とはいえ、もちろん大きさ次第である。 また、ピューター製品は基本的には伝統的・厳格な雰囲気を持つものが多いので、 実際には、ある程度重いことで、更なる重厚感が生まれるのは間違いない。 (参考:金属比重は、金>>銀>銅>錫(≒ピューター)>>アルミニウム)

ピューターは変色しにくい

錫という金属は、金属の中でも酸化しにくい金属である(=錆びにくい)。 とはいえ、全く酸化しないわけではなく、時間をかけて少しずつ酸化する。 ただし、鉄の錆と違って、錫の酸化した部分(錆)は、無色なので多少錆びても、見た目ではわかりにくい。 酸化スズ(錆)が厚くなると、表面が曇るが、スポンジで洗ったり・軽く研磨する事で比較的容易に綺麗になる。
このため、「錫(ピューター)は変色しない」と言われている。
ピューターの大部分は錫であるため、この特性はほぼ一緒であるが、 経年により、混ぜられた数パーセントの銅やアンチモン等が酸化し変色するため全体として若干色が暗めになる。 ただし、通常の環境下では、ピューターが激しく変色する事はない。

ピューターは高価

金属を希少性から分類すると、「貴金属」「レアメタル」「ベースメタル」のように分類できる。 貴金属は金・銀・プラチナなどでジュエリー等の利用が多く、 レアメタルはリチウム・チタン・アンチモンがあり、リチウムなどは電池として有名である。 ピューターの構成のほとんどを占める錫はベースメタル(地球上に沢山存在する素材)の一種なので、 上記の3分類で言うと希少ではないが、ベースメタルの中では非常に高価だ。 (2016年12月時点で、)錫は同じベースメタルの銅の約4倍、アルミニウムの13倍の価格となっている。
ピューター業界最古の工房であるイギリスのAEW社・7代目サム・ウィリアムスは 「錫はトン売りの金属の中で最も高価な金属だ」と言っている。(貴金属はトン売りではなくグラム売りである)
つまり、レアメタルのアンチモンも含み、高価な錫が主成分のピューターは決して安価な素材ではない。

ピューターはビールジョッキに最適

この節で説明する特徴については、科学的に証明されてない事も多いが、一般的に言われている錫・ピューターの特性である。 まず、ピューターは抗菌性があり、衛生的である。これは公共機関の研究で証明されているらしい。 ただ、仕組みについては分かっておらず、錫イオンが細菌の呼吸を阻害して殺菌する、という説があるらしい。 次に「熱伝導率が高いため保冷性が高い」らしい。これは錫器の販売サイトにしばしば載っているが、本当か疑問が残る。 錫という物質の熱伝道率が高いのは周知の事実だが、 熱伝導率が高く、器が冷たい飲み物によって冷えるのも早いが、空気によって器・飲み物が温まるのも同様に早いと思われるが・・・。 器が冷えているため、飲み口が変わり美味しく感じるというのは本当かもしれない。 最後に「水を浄化し、お酒をまろやかにする」とよく言われているが、科学的な理由は不明なようだ。
上記の全てが本当とは思えないが、日本人だけでなく世界的に言われている効果であるため、全くの嘘とは思えない。

ピューターの歴史

起源・古代

ピューターの起源は確かではないが、約4000年前のエジプトの墓からもピューター製品が出土しているようである。 約2000年前のローマ人は既にピューターを利用していた。紀元前43年に征服したブリテン島(現在のイギリス)には錫鉱山があり、豊富な錫があったため、多くの出土品が見つかっている。 ローマ人は印鑑や小さな雑貨にもピューターを利用していたようだが、腐食せず適度に強度があり、適度に造形が変更できるという点で印鑑などは最適なように考えられる。 また、昔のピューターは錫に鉛を混ぜただけの合金である。

中世

ピューターの普及は中世に起こったとされている。錫の産地であったイギリスを中心にヨーロッパ中でピューターは利用されていたが、 12世紀頃までは、ピューターはまだ富裕層にしか所有できない高価な物であり、城や教会、一部の裕福な商品の家などに利用されていた。 その後、庶民の間にも利用されるようになったピューターは、テーブルウェア(プレートやジョッキなど)として爆発的に普及した。

イギリスのピューター名誉組合「The Worshipful Company of Pewterers」の現存する最古の記録は1348年とされ、 少なくともその時代までには、組合があり一定の品質などを管理しており、同時に広く利用されていた事が分かる。 また、この組合は現在も存続しており、現時点ではロンドン・セントポールにあるロンドン市庁舎(ロンドンではなくシティ・オブ・ロンドン)に存在している。

近世・現代

18世紀頃、東洋から伝わった陶磁器技術を西洋で昇華させた時代、 量産できるようになった陶磁器製食器が安価になり、爆発的に普及した結果、ピューターのテーブルウェア素材としての地位が低くなった。 また、ピューターに含まれる鉛の毒性が危険視され始め、鉛に変わって銅・アンチモンなどを入れたピューターへと変化していった。 このピューターは「ブリタニア・メタル」と呼ばれる事もある。

20世紀以降、陶磁器・プラスチック・ステンレスの発明・発達によって、ピューターは日常雑貨の主役の座からは降りたと言える。 機能性・価格面では前者に勝てないためである。ただし、ピューターの強みである装飾性や不変性、耐久性は変わることはなく、 伝統工芸としてピューター雑貨・食器を愛する人は現在でも少なくない。

A.E.Williamsという工房

A.E.Williams(エー・イー・ウィリアムス) は、ピューター製品を作っているイギリスの工房。 イギリス産業革命の時代 1779年に創業したA.E.Williamsは、現存する世界で最古のピューター工房であり、 現代に至るまでのピューターの歴史・技術・鋳型などは、A.E.Williamsの家系により継承され続けている。